STORES、10X、Gaudiy。各社の具体的な取り組みから学ぶ、​​内定承諾率向上にお試し入社が使える理由 

激化する採用市場のなかで、どの企業も内定承諾率を上げるために奔走しているのではないでしょうか。

中途採用の基本的な選考プロセスといえば、複数回の面接による選考が一般的でした。
最近では面接に加え、選考体験の向上に向けて選考開始前からカジュアル面談の機会を提供している企業が多く、また、一緒に働くことになるチームメンバーと選考外に話をする場を選考過程で設け、なるべく企業のメンバーとの接点を増やすことで魅力づけを行うことも一般的となりつつあります。どの企業も魅力的な社内メンバーとの接点を増やすということだけでは、魅力づけの差異をつけることが難しくなりつつあります。

昨今では選考プロセスに実際の現場のなかで、実際に一定期間企業で働くことを通し、働き方や企業・候補者双方のスキル・カルチャーマッチを解像度高くを知る仕組みとして「お試し入社」を導入する企業が増えています。
「お試し入社」は、この役割のほかに、候補者体験の向上、その結果としての内定承諾率アップを図る側面も強くあります。今回は特徴ある「お試し入社」を実施する企業を選定して、具体的な内容から内定承諾率の向上に向けたヒントをご紹介します。


👍「お試し入社」が内定承諾率に効果的な3つの理由

入社後の業務や活躍イメージを具体的に持てる
・企業のカルチャーやバリューを仕事を通じて体感できる
・働き方の実態を把握し、条件とのバランスなど不安材料を取り除き入社を決められる


そもそも「お試し入社」とは?

お試し入社とは、業務委託や副業として、一定の期間応募企業での仕事を経験する制度を指します。入社後の試用期間とは異なり、あくまで選考プロセスの一環であるため、働いてみて違うな、となれば当然候補者が辞退することもあれば、企業が不採用の判断をする場合もあります。

候補者は実際の企業環境・カルチャーの下で働くことで、企業カルチャーにしっかりと浸かりながら自身がパフォーマンスを発揮できるかどうかを実際に確認することができます。このため、各社のカルチャーのなかで”自己効力感が高まる体験”を通じて内定承諾率の向上につながると考えられます。

また、企業側が「一緒に働かない」という判断を行ったとしても、それを前向きに下すことができるような機会を提供する設計にすることが大切です。そうすることで候補者に「この会社の選考に参加してよかった」と感じてもらうことができれば、口コミや将来の再応募も期待できます

お試し入社、体験入社、トライアル入社など名称は企業により様々。期間も1日から3ヶ月程度と幅がありますが、いずれの場合も導入にあたっては採用担当以外のメンバーの協力が不可欠である上、業務委託契約やNDAの締結、必要なツールのアカウント発行や権限付与など、運用上検討すべきポイントも少なくありません。
また、選考期間が長くなることで他の企業から先に内定を出され選考辞退されてしまっては本末転倒であるため、選考期間のタイムラインを確認したうえ、「お試し入社」までにも候補者に十分に魅力づけを行うことが重要です。なお、業務委託契約でお試し入社を実施する場合は、発注者である企業には指揮命令権がありませんので、偽装請負にならないように注意が必要です。

今回詳しくご紹介する企業はいずれも、組織のカルチャーやバリュー(共有する価値観・行動指針)を大切にし、積極的に発信している企業です。選考過程でコストをかけてきちんと自社のカルチャーが伝わるようなコミュニケーションを候補者と取ることで、候補者体験の向上・内定承諾率向上につなげている例をご紹介します。

「お試し入社」導入事例

※本記事は、ウェブ上に公開されている情報に基づいて作成しています。記載内容に関するご指摘や修正依頼につきましては、こちらよりお問い合わせください。

目次

#1 STORES株式会社

STORES社のSTORES 予約チームでは、一次面接、二次面接の代わりとして1日体験入社を選考プロセスに取り入れています。

入社後実際に働くことになるチームでの体験入社を通じて、エンジニアの場合には「実装や設計上での着眼点や、あえて行わないことや好み」*などの技術的な側面を見るとともに、チーム全体のバランスを崩さないか、気をつかいすぎないか、といったチームとの相性も確認しているそうです。チームカルチャーを知り、実務のなかで相性の確認ができる仕組みは、候補者体験の向上にも効果的です。

そのためにSTORES 予約チームが採用している取り組みを、STORES Product Blogオープン社内報などを参考にいくつかピックアップします。

社内のリアルな課題に取り組み、リアルに働くイメージを持つ

実際にチームのBacklogに存在するプロダクトの課題のうち、緊急度が低く、完全には答えが決まっていないもので、おおよそ半日でプルリクエストを出せるようなタスクを体験入社用にストックしているそうです。現実の課題に取り組むことで、候補者もチームメンバーも、よりリアルに一緒に働くイメージを持つことができます

オンラインでもチームとのコミュニケーションの機会を用意

体験入社はオンラインで実施されていますが(2022年3月時点※)、そのなかでも候補者がチームとのコミュニケーションを取りやすくなるための工夫をしているようです。体験入社のはじめに全員が自己紹介をしたり、ランチタイムの雑談テーマをあらかじめ用意したりするほか、業務開始後は基本的にチーム全員がビデオ会議に常時接続しているとのこと。カメラのオンオフは自由とすることでプレッシャーがかからないようにしつつ、チーム内の相談の様子を聞くことができるなど、実際に仕事をするチームの雰囲気が感じられるような環境をつくっているのが特徴です。

※さまざまな状況を鑑みた上でオンラインとオフラインの実施を切り替えており、今後はオフラインでの実施を主体にしていく予定とのこと

候補者・チームメンバー両者からフィードバックを集め選考体験向上につなげる

体験入社が終了すると、候補者とチームメンバーそれぞれからフィードバックを集め、選考の材料にするとともに、体験入社そのものの運用改善につなげているとのこと。課題設定や評価を通じてチームのあり方について認識を合わせることもできるため、チームビルディングの一助にもなっているようです。

Reference

・STORES 採用サイト
(https://jobs.st.inc/) 
・「未来のメンバーと一緒に働く。STORES 予約のエンジニア体験入社」
(https://people.st.inc/n/n50e66ce6f760) 
・「2年間実施してきた体験入社のノウハウ」
(https://product.st.inc/entry/2022/03/30/145438)
・「ぼくらが体験入社にこだわるワケ」
(https://www.slideshare.net/DaisukeSato11/ss-250324880)

#2 株式会社10X

10X社では「仕事内容やスタイル、メンバーとのコミュニケーションを楽しめるか、お互いにフィットするか、その判断に必要な情報を共有するために」*、2017年の創業以来、一部の職種を除いて選考プロセスの一環として「トライアル」(体験入社)を行っています。

10X社のトライアルの一番の特徴は、あるテーマに対して候補者自身が「インパクトあるイシュー」(課題)を設定し、それに取り組むというかたちで、実際に働く機会を提供している点です。候補者が自ら課題を設定するという方法は、同社が掲げる「10X VALUES」とも整合性が取れており、企業・候補者双方がカルチャーフィットを確認する上で有効なのでしょう

同社の「トライアル」について、もう少し詳細にご紹介します。

事業への理解を深めながら、働くイメージを膨らませられる

10X社のトライアルでは、タスクを完了させることを目的とはしていません。事前に共有された社内情報や実際のサービスに触れるなかで、自らイシューを見つけ出す力、そして解決までの筋道を立てる能力、オーナーシップを持ってことに取り組む姿勢を確認しているようです。

また、社内のメンバーにヒアリングをしたり、ディスカッションをしたりしながらトライアルで取り組むイシューを決定する過程で、候補者側も事業への理解を深めながら、同社で働くイメージを膨らませることができます

トライアルに課題も。チームごとに仕組みをアップデート

トライアルは相互理解を深める機会としてメリットがある一方で、候補者にとっては大きな負担になります。そのため、現職の業務や他社の選考状況との兼ね合いで辞退されるケースもあるそうです。候補者が選考時点で同社に全力投球できる人に限られてしまうことは大きな課題となり、それを理由の一つとして、現在ソフトウェアエンジニアに限っては別の選考プロセスに移行しているとのことです。

そのほか、お題がオープンかつ、事業の進捗に伴ってどのイシューがどのようなインパクトをもたらすかを理解することが難しくなってきていたがゆえに、限られた時間の中で力を発揮できる候補者とそうでない人の差が大きくなってしまったこと、トライアルのみでは技術面の確認が難しいことが、トライアルを続けて見えてきた課題として挙げられています。

候補者体験を改善する施策であるべきお試し入社が、かえってマイナスに働いてしまうような組織の状況やタイミングが出てきた場合には、一度決めたプロセスに固執せず、見直しをすることも重要です。

Reference

・10Xコーポレートサイト
(https://10x.co.jp/)
・「10Xのカルチャードリブン開発を支える選考プロセス『トライアル』の紹介」
(https://product.10x.co.jp/entry/2021/09/03/140000)
・「【連載:成長組織のリアル】非連続な価値を生むには、多様性は必須。10Xが挑むインクルーシブな組織づくり」
(https://seleck.cc/1504)
・「突撃!となりの採用定例 ~ 10Xに経営視点で採用をドライブさせる秘訣を聞いてみよう ~(イベントレポート)」
(https://lp.youtrust.jp/journal/posts/herp-10x-20220308)
・「ソフトウェアエンジニアの選考プロセスをアップデートしました」(https://product.10x.co.jp/entry/2022/07/04/155456)

#3 株式会社Gaudiy

Gaudiy社では、実際に働く中で同社のカルチャーを候補者に感じてもらうために、最短2週間から最長3ヶ月のお試し入社期間を選考過程に取り入れています。お試し入社を導入した当初は3ヶ月をマストにしていたとのことですが、試行錯誤を経て、お互いが一緒に働きたいと思えるかどうかを確認さえできれば、期間を固定することは重要ではないという考えから、現在の形に落ち着いたようです。

いずれにしても先に紹介した2社と比較すると期間が長くなり気軽に参加できるものではないため、お試し入社までにも入社意向を強く高めていることが予想されます。同社はお試し入社を、お互いのミスマッチがないかを双方に最終確認する場と捉えているとのことです。期間が長い分より深く業務に携わり、現場の課題やそれに向き合うメンバーの姿勢を直に感じられるため、会社や会社メンバーの「ファン」になって入社する候補者もいるのではないでしょうか。

同社のお試し入社制度についても、注目すべき点を2つご紹介します。

お試し入社そのものにもバリューを体現

Gaudiy社のお試し入社では驚くべきことに、期間終了時に実施されるアンケートで、メンバー全員(もちろん候補者本人も)が「一緒に働きたい」と回答しなければ採用にならないそうです。つまり、お試し入社の期間中に全員と関わる機会を持てるということでしょう。

これは、同社のバリューの一つである「DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)」を反映しており、「一人ひとりに意思決定に参加する権利がある」*という考えのもと定められたルールであるとのことです。同社の根本にあるカルチャーを「お試し入社」でも体現していますね。これを正式入社の前に体験できるということそのものが、選考体験の向上につながっていると言えそうです。

「プレオファー」で、候補者は働き方と給与のバランスを知ることができる

お試し入社はあくまで選考プロセスのなかで実施されるため、正式なオファーはお試し入社終了後になりますが、Gaudiy社では実施前にプレオファーを出しているとのこと。プレオファーで年収を提示し、正式入社時と同じ額をお試し期間中も支払っているそうです。(1ヶ月に満たない場合は日割り計算)

事前に年収提示があることで、お試し期間中に働き方と給与のバランスについてよりリアルに考えることができるので、候補者にとっても納得感をもって入社を決めることができるという利点があると言えるでしょう。

Reference

・Gaudiy 採用情報
(https://recruit.gaudiy.com/) 
・「「お試し期間」を終えて、Gaudiyに正式入社しました!」
(https://note.com/hanahanayaman/n/nb9bc886438b7)
・「なぜ、あのスタートアップは「採用」に強いのか?ソーシャルグラフ採用の極意(イベントレポート)」
(https://lp.youtrust.jp/journal/posts/event-socialgraph-20210826)
・「「技術先行の認知の壁を越えて共感者を増やす」自律分散型組織・Gaudiyのカルチャーマッチング」
(https://note.synamon.jp/n/n617e49f2010a)

まだまだあります。「お試し入社」導入企業

株式会社LayerX

開発職のみ原則1~2日間のトライアルを実施。チャットやNotionは社員と同じレベルのアクセス権限を付与し、組織の雰囲気やコミュニケーションの様子をリアルに感じられるようにしている。

みてね(株式会社MIXI)

エンジニアのみ、スキルやカルチャーフィットを確認するための期間として業務委託で最大1週間のお試し入社を実施。制度の利用は必須ではなく、候補者と相談の上決定している。

株式会社JX通信社

募集中のすべてのポジションで1~3ヶ月程度のおためし入社制度を提供。おためし期間中にも1on1を実施するなど、マネージャーやメンバーとのコミュニケーションを重視している。

株式会社ROUTE06

全職種で選考過程において7日間のお試し業務委託、またはオンラインでの社内見学を実施。カレンダーやチャットでのコミュニケーションの取り方についてガイドラインを用意し、運用をスムーズにしている。

株式会社Lang-8

自社サービスに関わる業務、チームミーティングや全体ミーティングの参加といった業務を通じて総合的にマッチするかをお互いに判断することで、スタートアップにとって死活問題ともなる早期退職を防いでいる。

まとめ

お試し入社を導入している企業は、プログラムそのものに自社のカルチャーやバリュー(共有する価値観・行動指針)をうまく取り込み、候補者に体感してもらうための様々な工夫をし凝らしています。

また、業務現場が実際に抱えている課題に取り組んでもらうことで、企業と候補者の双方が、入社後の業務や働き方、活躍イメージを具体的に持てるような仕組みを作っているようです。

会社の規模が大きくなったり、事業の状況が変化したりすると、それまでと同じ運用方法では選考プロセスの継続が難しくなる場合も多々あります。一度制度設計をしたら終わりではなく、会社規模や職種の特性に応じて、現場のメンバーと話し合いながら企業にとっても候補者にとっても意義のある時間になるよう、選考プロセスの見直しを続けていくことが重要です。

会社のカルチャーを積極的に伝えていくこと、そして候補者がチームのメンバーと一緒に働くイメージを膨らませられるような機会を提供することが候補者体験の向上、内定承諾率の改善につながるのではないでしょうか。「お試し入社」を思い切って選考プロセスに組み込むことが、内定承諾率向上の一助となるかもしれません。

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